当店の来歴

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梅田地下街本店

大阪地下街にて60年以上続く老舗古書店

 当店は、もともと神戸の洋古書店「ロゴス書房」に勤務しておりました先代(故・小林秀雄)が、終戦直後の昭和20年に独立、開業した店でございます。当時は大阪駅前の地上に仮店舗を構えておりましたが、他に良い場所がないかと探しておりました所、ロゴス時代より親交のございました、当時の大阪毎日新聞社におられた作家の故・井上靖氏に、現在の大阪駅前地下街の物件を紹介頂き、晴れて開店する事となりました。以後、大阪駅前地下街は目まぐるしく姿形を変え、当店は以後60年近く、同じ場所で、その変貌ぶりを目の当たりにしてきた訳でございます。今でこそ、地下街には新刊古書を問わず多くの書店が存在しますが、当時は地下に店舗を構える事自体が非常に珍しく、「人の足の下で商売するとは」と驚く人も多かったと聞いております。

 洋書を出発点とした当店ですが、以後文学・古文書・歴史と手を広げてゆき、また昭和20年代半ばより在庫目録も発行するようになりました。なかでも昭和32年に発行しました、近代文学初版本の特集目録『明治大正文学書目』は、研究者の間でも大変評判を生んだ力作で、現在でもこの事は当店の誇りとなっています。当時のバイオタリティー溢れる精神を受け継ぎ、以後、欠かすことなく目録を作りつづけております。

 昭和45年に阪急梅田駅の大改装に伴い、「大阪にも神田のような古書店街を!」と『阪急古書のまち』が誕生いたしましたが、縁あって平成5年、当店も支店をオープンする運びとなりました。大きなウインドウケースを持つ店舗という特徴を生かし、出来るだけビジュアルに訴えるよう、美術・趣味など中心にした品揃えとしております。

 …こうして、様々な情勢の変化や紆余曲折を経ながらも、地道に営業を続けてきました大阪駅前地下街本店ですが、老朽化した大阪駅前地下街の区画整理及び阪神百貨店との一体改装にともない、ついに2014年9月30日、皆様に惜しまれつつ、閉店する事となりました。

 閉店間際には、常連の方々はもちろんですが、それ以外にも学生の頃よく通っていたとおっしゃられる年配の方々や、新聞記事やテレビのローカル・ニュース等で知り、わざわざ遠方から足を運んでくださったお客様もたくさんお見えになられ、感謝の言葉もありませんでした。皆様からはその際、「なんとかならんのか」「実にさみしい」等々、さまざまな暖かい声をかけていただいたことを、私共はこの先、忘れることは決してありません。

 ただ幸いなことに、支店のある『阪急古書のまち』にひとつ空き店舗があり、同じ年の12月25日、そちらへすぐに移転することができました。閉店から新店開店まで準備期間3か月弱という慌しさのなか、その間にも、心配して支店に足を運んでくださったお客様には、いまでも頭の下がる思いがします。

 移転にあたり、店名も新たに「オリエントハウス萬字屋」となりました。

 美術全般をあつかう古書店として、再スタートします。すでに在る支店ともども、これからは『阪急古書のまち』でよりいっそうの精進を重ねてまいりますので、なにとぞ、これからも、萬字屋書店をどうか末永く宜しくお願い致します。


 (株)萬字屋書店  代表取締役 小林伸光